ラヴソング(甜蜜蜜)


「ラヴソング」を渋谷で見てきました(H10.2.12)。香港製のメロドラマ です。主演はレオン・ライ(黎明)とマギー・チャン(張曼玉)、 監督はピーター・チャン(陳可辛)です。

マギー・チャンというのはちょっと中野良子に似た感じです。 ジャッキー・チェンのドタバタアクション喜劇なんかで ぎゃあぎゃあ騒ぐ感じがあまり好きでなかったのですが、この映画 はテレサ・テンの歌をひとつのテーマにしているので、テレサの ファンとしては見逃せない映画なのでした。特に「甜蜜蜜(ティェンミミ―― 蜜のように甘く)」という曲は、この映画の原題にもなっています。 テレサ・テンの曲では、その他に、 がかかります。なお、映画公開にあわせてテレサ・テンの 『甜蜜蜜(テンミミ)スクリーン・テーマ集(香港・台湾映画)』というCD (TACA-1003)がnu taurusから発売されています。 上記4曲もはいっています。劇場でも売っていました。 またレオン・ライの『黎明 電影主題曲歌集』というCDも劇場で 売っていて、「甜蜜蜜」がはいっています。ただし映画の最後で テレサ・テンの「甜蜜蜜」からレオン・ライの「甜蜜蜜」に切り替わる、 ギターが伴奏のバージョンではありません。

廉価版のビデオも発売されました!(2900円)

映画はレオン・ライ演じるシウクワン(小軍)という天津の青年の乗った列車が香港 に到着するところのモノクロのシーンから始まります。シウクワンは香港に 住むおばさんを頼りにやってきたのです。

彼ははじめて入ったマクドナルドで 店員のレイキウ(李翹)[マギー・チャン]と出会います。シウクワンには故郷に恋人が あるのですが、しっかりもののレイキウと、ぼうっとしたところのある シウクワンとは相性もよく、自転車にふたり乗りして「甜蜜蜜」を歌ったり、 テレサ・テンのカセットなどを売る屋台を開いたりする 友達になります。ただこの商売は大失敗に終わります。 当時香港ではテレサ・テンのファンであることは 大陸出身であることを意味し、本来ならファンである大陸出身の人々は それを隠すためテレサ・テンのカセットは買ってくれなかったのです。 それまでいかにも香港人らしくふるまっていたレイキウも実は大陸出身 であることを告白します。他に親しい人のいない寂しいふたりの仲は一気に ふかまっていきます。

結末などに触れる話は別ページに書きました。すでにこの映画を見ている方・ 見るつもりの全くない方のみ 『つづき』 をお読みください。これから見る人は絶対『つづき』はみないで下さい。

シウクワンがあまりに幼稚で優柔不断に描かれており(特に前半)、 どうも彼に感情移入できませんでした。
これを書いたあとでシネマ・ジャーナルの41号をぱらぱらと見ていたら 片岡みどりさんの「私の『甜蜜蜜』考」という記事の中に「……ただ十年間 という時の流れを意識するあまり前半の松田聖子も(チト古いけどね)真っ青の ブリブリ演技はかなり鼻につきます」という表現がありました。うまいこと 書くもんですね、松田聖子の映画というのは見たことがないですが…。
パウのほうが、ちょうどチャン・ウェンが太って年をとったような感じで、 人間味のあるいい男でした。いくらなんでもレオン・ライのニューヨークに いくまでの演技はわざとらし過ぎるように思えました(特にエスカレータに 乗るシーン・マクドナルドでのおどおどしたシーン・街でテレサテンを 見かけ背中にサインしてもらうシーンなど)。

ですが、最後のレイキウの笑顔とモノクロシーンのトリッキーさで9回裏の 逆転満塁ホームランといった感じで、大満足でした。先日テレビで オードリー・ヘップバーンの「昼下りの情事」を見ました。あれも いい映画なんですが、ただひとつ気に入らないところが あるとすれば、ラストの、ヘップバーンがゲーリー・クーパーに列車に 引き上げられて(そこまではいいんですが)、抱きあうシーンです。 (あのシーンのヘップバーンは可愛くない!) 主人公たちが抱きあうところまで見せなくてもいいような気が します。その点、「ラヴソング」ではうまく処理していると感じました。

すれちがいモノといえば「君の名は」なんていうのがあったようですが、 見たことがありません。ぼくが今までで一番心に残っている「すれちがいシーン」 は、映画ではなくてロマン・ロランの小説の「ジャン・クリストフ」の中の、 ジャン・クリストフとアントワネットが逆方向に進む列車に乗っていて、駅で すれちがうシーンです(ちなみに、あの小説の中の一番好きな女性は、最初のへんで でてくるザビーネです)。


テレサ・テンの「甜蜜蜜」という曲は実はもともとそれほど好きな曲では ありませんでした。雑誌で「第十六回香港電影金像奨」に関する記事を読んで、 この曲がテーマになった恋愛映画が数多くの賞を受賞したことを知り、 首をかしげたものです。インドネシアのメロディを使っているそうですが、 なんとなくヘンな曲だなという印象が強かったのです。どちらかと言えば テレサ・テンの切ない歌が好きでしたので。 でも何度も何度も聞いているうちに、彼女の本来の持ち味は楽しい歌、ほのぼのとした 味の歌、しみじみとした恋の喜びの歌のほうにあるのだという気がしてきました。 上の「月亮代表我的心」や同じCDにもはいっている「小城故事」などは特に 名曲だと思います。

ニューヨークの中華街とテレサ・テンというと(と書いても『つづき』を 読んでいない方には意味が不明かもしれませんが)、なつかしい思い出が あります。1979年のクリスマス休み、当時コロンビア大学の大学院に 留学していたK島氏のところに遊びに行きました。夕食には彼が中華街に 連れていってくれました。そのとき、音楽カセットを売る小さい店があったので、 何気なくその店にはいりました。その店でかかっていた女性歌手の声がなにか 聞いた覚えのある声でしたので、店の人にその歌手のカセットはあるかときいた ところ指し示してくれたのが、テレサ・テンのカセットでした。そのとき買った2本 のテープは何度も何度も繰り返して聞きました(その後もっと増えました)。 バージニアの山奥で一人寂しい思いをしていたぼくの心に、 テレサ・テンの歌はしみ入ってくるようでした。そんな事情で「ラヴソング」の ラストにはずいぶん甘くなっているかもしれません。これを読んで見に行って、 「つまんなかったゾー」という方がありましたら、申し訳ないです。


話はまた変わりますが、1980年の旧正月に台湾/香港の映画を見ました。 ひとつはジャッキー・チェンの映画でしたがもう一つが「小城故事」では なかったかなあ、という記憶があります。ところが上のCDの解説を読むと 「小城故事」は『老彫刻家とその2人の娘、ささいなことで投獄された彫刻家 が獄内で知り合う青年といった、市井の人々の出会いとそこから生まれる 波紋を、台湾の古都・鹿港を舞台に描く』映画だそうで、ぼくの記憶違い かもしれません。そのとき見た映画の内容で覚えているのは、一人の女性が 悪い男にレイプされそうになり抵抗しているうちにナイフでその男を 刺し殺してしまい警察に逮捕され裁判になる、といったものです。どなたか、 この映画について心当たりのある方はどうか教えてください。


また、「ラヴソング」の話に戻りますが、シネマジャーナル Vol.41 に掲載されて いる、岸西(アイヴィ・ホー)さん(脚本を担当)へのインタビューの記事で インタビューアーの山中久美子さんの「この作品は日本人でも充分共感できるところは あると思いますか?」という問に対する岸さんの
この作品はあくまでもラブストーリーです。ラブストーリーというのは 人の心を感動させるものだと思います。日本でも例えば田舎から都会に出て行って、 そういう大都市で頑張らなくっちゃという気持ちとか、寂しい気持ち、 田舎者同志の気持ち、そこで恋に落ちていく二人、そのような心の動きは、 中国人だから日本人だからということではなく、わかってもらえるのではと 思います。そういうことを頭に置いてこの作品を楽しんで見て下さい。
という返事は、とても納得できました。シウクワンを見ていていやな気がしたのは、 過去の自分を見ているような気がしたせいかもしれません。

「甜蜜蜜」リンク

「テレサ・テン」リンク

テレサ・テン=カセット=コレクション(どのテープもあまり何度も聴いたので 調子が悪くなってしまいました。今はもっぱら CD で聴いています。)
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海賊版?
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