[2005年度数学要論II]

#1. 距離空間

9月22日の講義で最も重要な事項は距離空間の定義です:

[距離関数]
写像 d:XxX→Rが次の3条件を満たしているとき、d を X 上の距離関数という。
D1:∀x, y ∈ X : d(x,y)≧0,   d(x,y)=0 ⇔ x=y
D2:∀x, y ∈ X : d(x,y)=d(y,x)
D3:∀x, y, z ∈ X : d(x,z)≦d(x,y) + d(y,z)

[距離空間とその点]
X と d を対(=順序対)にしたもの (X,d) を距離空間という。 ただし、どんな距離関数 d を考えているのか誤解のおそれの無い場合は単に X で距離空間を 表してもよい。
Xの要素を距離空間のという。

[2点の距離]
d(x,y) を2点 x, y の距離という。

「X と d の対」というのがピンと来なかった方が多かったようです。 これは次のように考えてください:ふたつの距離空間 (X,d), (Y, d')が「等しい」とは どういうことでしょうか。「(-, -)」は順序対でしたから、

(X,d) = (Y,d') ⇔ X = Y かつ d = d'

となります。つまり単に集合として X と Y が等しいだけでなく、 それと対をなす距離関数 d と d' も等しいということです。

さて、集合として R2 を考え、その上に次の4つの距離関数を考えましょう (授業の時と記号が違いますが気にしないでください)。

[問] さて、4つの異なる距離空間 (R2, d), (R2, d'), (R2, d"), (R2, dD) の3点 a=(0, 0), b=(4,2), c=(4,4) を考えます。 以下の小問を、おのおのの距離空間について解きなさい。

  1. a と b の距離、 b と c の距離、 c と a の距離を計算しなさい。
  2. 2点 a, b から等しい距離にある点全体の作る図形を図示しなさい。>> 解答
  3. 2点 b, c から等しい距離にある点全体の作る図形を図示しなさい。
  4. 2点 a, c から等しい距離にある点全体の作る図形を図示しなさい。

その他の質問など

D3の3次元の場合の図がよくわからなかった。

図に描こうとすると、却ってわからなくなるかもしれません。x, y, z の3点を 含む平面を考え、その平面の上で考えるとよいと思います。


最後の定義の d:X x X → R の意味がいまいちわかりませんでした。
距離空間とは、任意の2点の間に「距離」が決まっているもののことです。 2点x, yに対してその距離をd(x,y)と書くことにすると、d は2変数の関数ということになります。 上の記号は、単にそれを「記号」で表現しているだけのことです。 「記号」は便利なので早く慣れましょう。

直積の定義を忘れてしまっていたので、復習し直さなければいけないと思った。
そうです! 直積はとても重要な概念です。ちゃんと復習したでしょうか。
ウィキペディアの「直積集合」の項目には色々難しいことも載っていますが、一番上の方に書いてあることがわかれば それで十分です。

「シュワルツの不等式のn=2の場合」とあったが、n が何なのかわかりません。
n は不等式 (a1b1+ …… + anbn)2 ≦ (a12+ …… + an2) (b12+ …… + bn2) (ただし ai, bj はみな実数)の各カッコ内の項の数です。 n が 2 とすると、 この不等式は (a1b1+ a2b2)2 ≦ (a12+ a22) (b12+ b22) となります。 ついでに n=1 の場合は (a1b1)2 ≦ (a12) (b12) となりますが、これは明らかに=が成り立ちますね。

最後に出てきた「ユークリッド直線」「ユークリッド平面」が、漠然としています。
R と距離関数 d(x,y)=|x-y| の対のことを「ユークリッド直線」といいます。 同じ集合 R でも、別の距離関数、例えば d'(x,y)=|x-y|/(1+|x-y|) をついにして 得られる距離空間はユークリッド直線とはいいません。
R2でも、上の問の (R2,d) が ユークリッド平面といわれる距離空間です。 (R2,d') や (R2,d") はユークリッド平面ではありません。

“ユークリッド”とはそもそも何なんだろうと思いました。

古代ギリシャの数学者の名前です。
ウィキペディアの「エウクレイデス」の項目を読んでみてください。


距離空間と距離関数、距離などの区別が難しい。
「距離」は日常用語と同じで、二つの点の離れぐあいを表す「数」です。 この数は、考えている2点が変わると変わるので、その2点を変数と思うと 「関数」になります。これが「距離関数」です。 集合にその上の距離関数というある種の構造を組み込んだものが「(距離)空間」です。
一般に「集合」に何らかの「構造」を組み込んだものを「空間」と呼びます。 例えばR2にある条件をみたす「和」や「スカラー倍」の演算を 組み込むと「線形空間」と呼ばれるものになります。

D2がよくわからなかった。
点xから点yまでの距離を測るのと、点yから点xまでの距離を測るのでは、 同じ結果になって欲しい、という要求だと思ってください。

文字ばっかりでよくわからなかった。
上の問は図が出てきますから、楽しんでください。 9/29の授業では色々図が出てきます。 ただ、図は理解を助けることもありますし、 逆に判断を間違わせることもあるので、注意して用いましょう。

Rのとき d:RxRR, R2のとき d:R2xR2R のところがよくわかりませんでした。
まず、Rのときですが、2点 x, y を与えるとその距離は d(x,y)=|x-y| なので、d は2つの実変数の関数になります。
R2のとき、2点 x=(x1,x2), y=(y1,y2) の距離 d(x,y)=d((x1,x2), (y1,y2) ) = d(x1,x2, y1, y2) は ((x1-y1)2 + (x2-y2)2)1/2 で、 d は4つの実変数の関数となります。



解答:下図の緑(d)、赤(d')、青(d")、黄(dD)でぬられた部分。