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距離空間における点列の収束・続き


まず、宿題であった 演習プリント #1 [2](1) を取り上げました。 この場合には、極限が (0,0) であるということが容易に予想できます。 数列 {d(xn, (0,0))}が 0 に収束することは容易にわかります。 では、この点列が(0,0)以外の点にも収束するということは起こらないのでしょうか。 そういうことが起こらないことを次の定理が保証しています。

定理:距離空間の点列の極限はたかだか一つである。

2種類の証明を与えました。どちらの考え方も重要です。 どちらも出発点は同じです:
距離空間 (X,d) の点列 {xn}が a∈Xにも収束し、b∈X にも 収束すると仮定します。 「a=b」であることを証明するのが目標です。

[第1の考え方] 「a=b」⇔「d(a,b)=0」ですから、d(a,b)=0であることを示します。
0≦d(a,b)≦d(a,xn)+d(xn,b)= d(xn,a)+d(xn,b) → 0であるから, d(a,b)=0 が示される。よって、a=bとなる。□

[第2の考え方] 背理法を用います。
仮に、a≠b と仮定する。このとき、d(a,b)>0である。ε=d(a,b)/2 とおく。ε>0である。 このεに対し, xn→0であることから、
   ∃n1N s.t. n≧n1 ⇒ d(xn,a)<ε
   ∃n2N s.t. n≧n2 ⇒ d(xn,b)<ε
したがって、n=max{n1, n2}に対して,
   d(a,b)≦d(a,xn)+d(xn,b)= d(xn,a)+d(xn,b)<2ε=d(a,b)
となり、不合理な結論 d(a,b)<d(a,b) が得られる。 したがって、a=bでなければならない。□


一方[5](1)のように、極限をもたない場合は、どんな a∈R2 を とっても、それが{xn}の極限でないことを示す必要があります。

[5](1) :収束しない。
a∈R2を任意にとる。a がxnの極限でないことを示す。 dD(xn,a) の値は0または1であり、0になるのは xn=a のときに限る。xnたちはnが違えば違う点であるから、 xn=aが成り立つような n は存在しないか、もし存在してもただ一つである。 したがって、十分大きい n に対してはxn≠aであり、 dD(xn,a)=1である。 従って、dD(xn,a)→1であって、 dD(xn,a)→0ではない。□



次に写像に関して「連続」の概念を導入しました:

定義:(X,dX), (Y,dY) は距離空間、 f:X→Y は写像、aはXの点とする。
  fがa で連続 ⇔ [(X,dX)の点列{xn}がaに収束  ⇒ (Y,dY)の点列{f(xn)}がf(a)に収束]
  fが連続 ⇔ f が X の各点で連続

次回、我々は連続写像の特徴付けを2種類学びます。ひとつはεδ論法によるものです。 もうひとつは「開集合」の概念を用いるものです。その準備として、「ε近傍」の 概念を導入しました。

定義:距離空間 (X,d) の点 a と実数ε≧0に対し、 (X,d)におけるaのε近傍 N(a;ε) を次のように定める。
   N(a;ε) = { x ∈ X | d(x,a)<ε }

つまり、a との距離(dを用いたもの!)がε未満の点全体の作る図形です。 これは距離関数 d  を取り替えれば、同じ集合 X と同じ点 a と同じ数εでも、 違った図形になりますから、注意が必要です。講義ではいくつかの例について 調べてみました。