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幾何学II

セル複体のホモロジー(1)

前回(2次元以下の)セル複体 X に対し、 線形写像 ∂: Ci(X;R) → Ci-1(X;R) を定めました(iは整数)。 証明はしませんが、これは鎖複体になります。つまり∂∂=0 が成り立ちます。 この鎖複体をC(X;R)で表します。

例えば、前回の射影平面の例では、 線形写像 ∂: C2(X;R) → C1(X;R) の表現行列 A は

     ┌ ┐
     │2│
     │2│
     └ ┘
線形写像 ∂: C1(X;R) → C0(X;R) の表現行列 B は
     ┌     ┐
     │-1  1│
     │ 1 -1│
     └     ┘
で、このふたつの∂の合成写像に対応する行列は積 BA になりますが、この積は確かに 零行列となります。

一般に鎖複体
         ∂    ∂    ∂    ∂
   C : …… → Ci+1 → Ci → Ci-1 → ……
が与えられたとき、各 Ci の線形部分空間 Zi, Bi
   Zi = Ker (∂:Ci → Ci-1 )  = { x ∈ Ci | ∂(x) = 0 }
   Bi = Im (∂:Ci+1 → Ci )  = { ∂(x) ∈ Ci | x ∈ Ci+1
で定めます。∂∂=0 が成り立つので、包含関係
   Ci ⊃ Zi ⊃ Bi
が成り立ちます。

定義:各 i に対し、
   Hi(C) = Zi / Bi
を (実係数)鎖複体 C のi次元ホモロジー群といいます。 これは線形空間であり、その次元
   βi = dim Hi(C)
を C のi次元ベッチ数といいます。

等式
   βi = dim Zi − dim Bi
が成り立ちます。

また、次の関係式が成り立ちます:
   dim Zi + dim Bi-1 = dim Ci

★ dim Bi の計算方法: dim Bi = rank (∂:Ci+1 → Ci) ですから、この写像を行列で表示し、行基本変形で階段型に変形して階数(rank)を計算します。

★ dim Zi の計算方法: dim Zi = dim Ci − dim Bi-1 を用います。

なお、Cn+1=0ならば、Bi=0ですし、 C-1=0ならば、C0=Z0です。


セル複体 X の実係数ホモロジー群 Hi(X;R) を Hi(X;R) = Hi(C(X;R)) で定義します。dim Hi(X;R) を X のi次元ベッチ数といい、 βi(X) と書きます。

射影平面の正方形表示から得られるセル複体のホモロジー群の次元の計算を行いました。




幾何学演習II

単体複体のホモロジー(1)

単体複体 K から得られる実係数鎖複体 C(K;R) のi次元ホモロジー群 Hi(C(K;R)) を Hi(K;R) とかき、 K の実係数i次元ホモロジー群といいます。 C(K;R)の i次元ベッチ数 βi(C(K;R)) をβi(K) とかき、 K のベッチ数といいます。


小テスト
下図のように4点 a, b, c, d がある。
              ・b




              ・a



      c・             ・d

単体複体 K ={<a,b>,<a,c>,<a,d>,<a>,<b>,<c>,<d>}を考える。 K の実係数ホモロジー群の次元を計算せよ。