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幾何学II
■セル複体のホモロジー(2)今回は、閉曲面のホモロジー群の計算を行いました。
閉曲面Xの多辺形表示はその閉曲面のセル分割を与えます。 そのセル複体のホモロジー群は、セル分割によらないことがわかっています。 i次元実係数ホモロジー群の次元をXのi次元ベッチ数といいます。 閉曲面のベッチ数については下の表のようになります。
X S2 nT2=T2#…#T2 nP2=P2#…#P2 β0=dim H0(X;R) 1 1 1 β1=dim H1(X;R) 0 2n n-1 β2=dim H2(X;R) 1 1 0 χ(X) 2 2-2n 2-n
一番下の段に載せてあるのは X のオイラー標数 χ(X) です。これは
χ(X)=β0(X)−β1(X)+β2(X)
です。(2次元以下の)セル複体 X に対し、iセルの個数をρi(X) で表すことにします。 つまり、
ρi(X) = dim Ci(X;R)
です。このとき次の公式が成り立ちます:定理(オイラー・ポアンカレの公式)
χ(X)=ρ0(X)−ρ1(X)+ρ2(X)
証明は次回にまわします。
幾何学演習II
■小テスト
下図のように5点 a, b, c, d, e がある。
・a b・ ・c ・d ・e単体複体 K ={<a,b,c>, <b,c,d>, <a,b>,<a,c>,<b,c>,<b,d>,<c,d>,<d,e>,<a>,<b>,<c>,<d>,<e>} を考える。 K の1次元実係数ホモロジー群の次元を計算せよ。
■単体複体のホモロジー(2)
定義 単体複体 K が連結であるとは、K の任意の 2つの頂点 a, b に対し、となりあう1単体の列
<u0,u1>, <u1,u2>, <u2,u3>, <u3,u4>, …… <un-2,un-1>, <un-1,un>
で、u0=a、un=b となるものが存在することをいう。
上の列の1単体から、1チェイン
c = <u0,u1>+ <u1,u2>+ <u2,u3>+ <u3,u4>+ ……+ <un-2,un-1>+ <un-1,un>
を作ると ∂(c)=<b>−<a> であることがわかります。 つまり任意の頂点 a, b に対し、<b>−<a>∈B0 が成り立ちます。 これを使って次の定理が証明できます。定理 K が連結であるならば、β0(K) = 1 である。
証明を途中までやりました:
以下では0単体<v>を単にvと略記します。 K の頂点を v1, ……, vr とします。 写像 f : C0=Z0 → R を
f(α1 v1+……+αr vr)= α1+……+αr
で定義します。これは明らかに線形写像です。 任意のα∈Rに対し、f(αv1)=αなので、fは全射です。主張:Ker f = B0
もし、これが正しければ、
Im f = Z0/ B0=H0(X;R)
で、dim Im f = dim R = 1 であるから定理が正しいことになります。主張の証明(これは次回解説します):
★ B0⊂Ker f の証明
Kの1単体を e1=<v10,v11>, e2=<v20,v21>, ……, es=<vs0,vs1> とします。 B0の任意の元は ∂(β1e1+……+β1e1)とかけます。この元の f による像は
f∂(β1e1+……+β1e1)
= β1 f∂(e1)+…+βs f∂(es)
=β1 f(v11−v10)+……+ βs f(vs1−vs0)
=β1(1+(−1))+……+βs (1+(−1))=0
よってB0⊂Ker f。
★ Ker f⊂ B0の証明
Ker f の任意の元 x=α1 v1+……+αr vr をとります。仮定より、 α1+……+αr=0 になっています。 これをα1=−α2−……−αrと変形して、 x の式に代入すると、
x = (−α2−……−αr)v1+ α2 v2+……+αr vr
=α2 (v2−v1)+……+αr (vr−v1)
となります。K が連結であるという仮定から、これが B0の元であることが わかります。