前回までで、2種類の空間概念が導入されまし。 ひとつは距離空間 (X,d)、もうひとつは位相空間 (X, O) です。 距離空間 (X,d) に対して、位相空間(X, Od(X)) を作ることができます。 この対応は一対一ではないことに注意しましょう。 異なる距離空間に対して同じ位相空間が対応することがありますし、 対応する距離空間をもたない位相空間もあります。
問:X をR2 とし、いつもの距離 d, d', d", dD を考える。 このとき d, d', d" は同じ位相を定め、dD のみが他と異なる位相を定めることを 確かめなさい。
定義:位相空間 (X, O) がハウスドルフであるとは、 任意の相異なる2点x, y∈X に対して次をみたす開集合 U, V が存在することをいう。
- x ∈ U, y ∈ V, かつ
- U∩V=φ
定理:(X,d) が距離空間であるとき、 (X, Od(X) ) はハウスドルフである。
定理:(X,d) が距離空間、x ∈ X であるとき、集合 { x }は閉集合である。
問:上のような性質を持たない位相空間を例示しなさい。
さて、距離空間と位相空間の違いは「距離」の存在ですが、「距離」が直接関係する事象として、 点列の収束があります。距離空間では点列{xn}が点 x に収束することを、 数列 d(xn, x) が 0 に収束することとして定義しました。 実は位相空間においても点列の収束の概念を導入することができます。 しかし、それは空間の位相を記述する道具としてはいささか不十分であることが知られています。 以下で、距離空間において、点列の収束を用いて定義されるいくつかの概念を紹介します。 そのうちのあるものは、実際には距離ではなく、その定める位相によって決まる概念であり、 そのまま位相空間における定義に一般化できます。 またあるものは本質的に距離が関わる概念であり、位相空間への一般化は不可能です。
取り上げる概念は次の3つです。
- 写像の連続性
- 空間の完備性
- 空間のコンパクト性
まず写像の連続性について学びます。 (X,d), (Y,d') を距離空間、f : X → Y を写像とします。 (これを f : (X,d) → (Y,d') のように書くこともあります。)
定義:
- f が点 x (∈ X) において連続であるとは、X の任意の点列 {xn}に対して、「xn → x ならば f(xn) → f(x)」 が成り立つことをいう。
- f が連続であるとは f がXの各点で連続であることをいう。
この定義は距離関数 d, d' を用いています。しかし、次の定理はこの定義が、 Od(X) と Od'(Y) によって決まることを示しています。
定理:次は同値:
- f : (X,d) → (Y,d') は連続である。
- 任意のx∈X と任意のε>0 に対して、次をみたすδ>0 が存在する:f(N(x;δ)) ⊂ N(f(x);ε)
- 任意の U ∈ Od'(Y) に対して f-1(U) ∈ Od(X)
- 任意の F ∈ Ad'(Y) に対して f-1(F) ∈ Ad(X)
注意:2では、異なる x, εに対してはδの値が異なってもかまいません。
注意:位相空間の間の写像に関しては連続性を上の 3(←→ 4)で定めます。
次の話題は完備性です。(X,d) は距離空間とします。
定義:(X,d) の点列{xn}は、条件「任意のε>0に対して、うまく自然数N を選ぶと、 n, m ≧ N → d(xn, xm) < εが成り立つ」をみたすとき、 基本列またはコーシー列であるといいます。
定理:収束する点列は基本列である。
定義:基本列が必ず収束するとき、(X,d) は完備であるといいます。
ユークリッド空間は完備です。特に数直線(ユークリッド直線)は完備です。
(Y,d) が距離空間であり、X が Y の部分集合であるとき、Y の距離関数 d : Y × Y → R を X×Xに制限することにより、距離空間 (X,d) が得られます。 このような (X,d) を (Y,d) の部分距離空間といいます。 開区間 (-1, 1) や有理数全体の集合 Q は、数直線の部分距離空間と考えるとき、 完備ではありません。
完備であるかどうかは、位相ではなく、距離関数によって決まります。
問:開区間 X=(-1,1) の距離関数 d, d' で、同じ位相を定めるが、 (X,d) は完備であり、(X,d') は完備でないものを作りなさい。
問:f : (X,d) → (Y,d') が連続写像で、{xn}が (X,d) の基本列であるとき、 {f(xn)}は必ず (Y,d') の基本列になりますか?
次に空間のコンパクト性について学びます。(X,d) は距離空間とします。
定理:次は同値。
- (X,d) の任意の点列 {xn}は収束する部分列を持つ。 すなわち、単調増加な自然数の列 n1<n2<n3<……と Xの点xが存在して、xnj → x (j → ∞)となる。
- Uλ ∈ Od(X) (λ∈Λ) かつ ∪λ∈Λ Uλ = X であるならば、 有限個のλ1, λ2, …… , λk ∈Λ をうまく選べば、 ∪i=1, …, k Uλi = X とすることができる。
上の条件を満たす距離空間は点列コンパクトであるといわれます。 一般の位相空間 (X, O) では条件2においてOd(X)をO で書き換えた条件が満たされるとき、コンパクトであるといわれます。 もちろん、距離空間では点列コンパクトとコンパクトは同じです。
定理:(X,d) がユークリッド空間 (Rn,d) の部分距離空間であるとき、 次は同値:
- (X,d) はコンパクト。
- X は Rn の有界な閉集合。
問:f : (X,d) → (Y,d') が連続写像で、 (X,d) がコンパクトであるとき、像 f(X) は、(Y,d') の部分距離空間と考えるとき、 コンパクトになることを証明しなさい。
※ 以後、距離空間の部分集合 A が、部分距離空間としてコンパクトであるとき、 単に「A はコンパクトである」ということにします。 上の場合は「f(X)はコンパクトである」ということになります。