図形 X がある単体的複体 K の多面体 |K| と同相(位相同型)であるとき、X は単体分割可能であるといい、|K| との同一視を、X の単体分割といいます。
単体分割可能である図形 X のp次元実係数ホモロジー群 Hp(X;R)
(p∈Z) を次のように定義します。
定義:
Hp(X;R) = Hp(K;R)
※ ただし K は Xの単体分割を与える単体的複体
定理:Hp(X;R) は単体分割の取り方にはよらない。
Xとして閉曲面を考え、ホモロジー群の計算を試みて下さい。まず単体分割を与えるのが
非常に難しいことに気づきます。教科書の p.47 に具体的な分割の仕方が解説されていますが、
非常に難しいですね。
そこで、このような分割を用いない計算方法には次のふたつが考えられます:
- 計算するための「道具」を作る。
- 強引に単体の数を減らす。
教科書では、第一の方法がとられています。
その「道具」とは§13の「マイヤー・ビートリス完全系列」ですが、
これを作るためには数十ページを要します。我々は、第2の方法をとることにしましょう。
話を簡単にするために、閉曲面だけを対象とすることにします。
強引な分割とは、次のようなものです。
- 「頂点」は通常の0単体(=点)。
- 「辺」は線分でなくてもよい。まがっていても、両端が同じ頂点にはりついてもよい。
- 「面」は三角形でなくてもよい。多角形でもよいし、2角形でもよい。
さらに、円板と同相ならなんでもよい。また頂点や辺に貼り付けるときに境界の一部または
全体をつぶしてもよい。
例:
b
・―――→―――・
│ │
│ │
a↑ f ↑a
│ │
│ │
・―――→―――・
b
上の図はトーラスTです。4つ頂点が見えますが、実はこれらはすべて同一視されるので、
実際には頂点はひとつしかありません。これを v としましょう。辺は4本見えますが、
やはり同一視されているので、aとbの2本です。四角形が「面」です。これをfとします。
これは四角形を用いているし、各辺も頂点vから出発してvで終わっていますから、
単体分割ではありません。このような分割を胞体分割と呼びます。
以前習った閉曲面の表現は、実は胞体分割を与えるものだったのです。
胞体分割 K に対してもその実係数鎖複体 {Cp(K;R), ∂} を作ることが出来ます。
- C0(K;R) は頂点たちを基底とする線形空間
- C1(K;R) は辺たちを基底とする線形空間
- C2(K;R) は面たちを基底とする線形空間
また、∂:C1(K;R)→C0(K;R)は単体的複体のときと同様に、
∂(辺)=(終点)−(始点)
で、定義します。
∂:C2(K;R)→C1(K;R)は、次のように定義します。
まず各面に向きをつけます。2単体の場合は向きは時計回りの向きと反時計回りの向きとの
ふたつがありました。胞体(多角形)の場合も同じです。時計回りと反時計回りの
ふたつを考えます。上の例でfに時計回りの向きをつけることにします。
そのとき、∂(f) は下図で定めます:
b
・―――→―――・
│ │
│ │
a↑ f ↓−a
│ │
│ │
・―――←―――・
−b
つまり、∂(f) =a+b+(−a)+(−b)=0となります。
反時計回りの時はすべて向きが逆になります。
後の計算は単体的複体の鎖複体の場合と全く同じです。
∂:Cp(K;R)→Cp-1(K;R)を行列で表すと、
その階数(ランク)が Bp-1(K;R)の次元になり、
dim Zp(K;R)=dim Cp(K;R) − dim Bp-1(K;R)
により、dim Zp(K;R) を求めます。差
dim Zp(K;R) − dim Bp(K;R)
が dim Hp(K;R) になります。これが
dim Hp(X;R) です。
トーラスの場合は、図式は次のようになります(以下(K;R)は略します):
|
|
|
|
∂ |
|
∂ |
|
|
0 |
→ |
C2 |
――→ |
C1 |
――→ |
C0 |
→ |
0 |
|
|
|
∪ |
|
∪ |
|
‖ |
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|
|
Z2 |
|
Z1 |
|
Z0 |
|
|
|
∪ |
|
∪ |
|
∪ |
|
0 |
= |
B2 |
|
B1 |
|
B0 |
左の∂は上で見たように0なので、階数も0。従って、
dim B1 = 0、
dim Z2 =dim C2 −dim B1 = 1 − 0 = 1
となる。よって、
dim H2 = dim Z2 −dim B2 = 1 − 0 = 1。
つまり
H2(X;R) = R1 となります。これを続けて、
H1(X;R) = R2,
H0(X;R) = R1 がわかります。
その他のpに対しては
Hp(X;R) = 0 です。
胞体分割を用いても得られるホモロジー群は、
閉曲面に対して単体分割を用いて計算されるものと同じであることが知られています。
また、この場合も等式
dim H0 - dim H1 + dim H2
=
dim C0 - dim C1 + dim C2
が成り立ち、これらを閉曲面のオイラー標数といい、χ(X)と書きます。